球面ズミルックス狂想曲 1
ズミルックス35mmといえば、一番最初に僕をライカの世界に引き込んだレンズだ。
友達の筒井君がこのレンズで撮った飲み屋の写真が、やけに印象的だった。特にグラスの縁とか、ハイライトのにじみが自分のイメージとおんなじで、印象派写真を目指していた僕にとっては最高の写りだった。
その後すぐに、僕はM6TTLを手に入れ、ズマロンにはじまってズマリット、ズミクロン35mm7枚玉、などなどのレンズをとっかえひっかえ使ったのだが、ズミルックス35mmを手に入れたのはその後1年半も経ってからであった。
なんでそんなに長く、「感動の映り」のズミルックス35mmに行かなかったのかというと、簡単な話、値段が高すぎて買えなかったのだ。
ズミルックス35mmの中でも球面タイプ、さらに初期型が欲しいなどというと、メガネ付きでも当時17−8万円していた。それまで使っていたレンズで、10万円を超えるものは無かったので、これは高い。なにしろ、ちょっとぶつけたら壊れちゃうようなモンである。とくにズミルックスは壊れそうだ。前球が飛び出してるから、何か撮るまえにぶつけそうだ、、、、
というわけでまぁ、しばらくの間手が出なかった。
そんなある晩、仕事から帰り、ちょっとだけ、しかしくまなくオークションのページを見ていると、、、
「ズミルックス初期、M3用、148000円、残り時間15分、入札0」
っつーのが目に入った。
残り時間15分、というのは、、、ちょっと調べ物なんかをして、あわよくば筒井君に電話をかけたりなんだりして、それから入札を考えても、ひょっとすると間に合う時間である。仕事帰りの疲れた頭がまるでシャキっと爽快な日曜の朝のように回り始め、僕は分析を開始した。ほほお、公称の製造年より早い番号のごく初期型だ、レンズオーケー、メガネオーケー、概観もなかなか。だんだん148000円が安く感じてくる。
数々のオークションを体験して、今もって不思議なのが、この金額の評価である。昨日まで絶対値で高いと思っていたものが、突然に相対値で安いと感じ始めることがある。これについてはもうちょっと研究をすすめて、「オークションにおける相対価格判断理論」という論文にまとめる予定である。
ライカとつきあっていて素晴らしいと感じるのは、こういった付随する学習が数多くあり、とても勉強になると言うことである。僕なんかはそんな勉強を何十回もやっているので、人間的にもとても成長した。オークションでの評価も上々だ。上々な理由は「すばやい入金をありがとうございました」だが、皆僕の人間的魅力について言及しないのは、控えめと言われる日本人の特性であろう。
僕の人間的魅力についてはいずれまたゆっくり話すとして、そーそー今はズミルックスの話だった。人間的魅力に目を奪われていたが、ここはぐっとこらえてズミルックスについて語ることとしよう。
そんな訳で特に競り合いにもならず、無事手に入れたズミルックス初期型は、前球がグーンと飛び出て、ブルーやパープルのコーティングがキラリと光って、それはそれはいい写真が撮れそーなレンズだった。僕は早速、M6TTLにそれを付け、親戚の集まりとかに持ち出し使ってみた。なにしろ開放1.4だ。ISO400のフィルムを入れておけば、室内でもノーフラッシュでへっちゃらである。室内で50mmなんかだと、どうしてもアップの写真しか撮れなくてつまらないのだが、35mmならちょいと構図も工夫できたりする。どうだどうだとコトコトシャッターを切って、これまた静かなシャッター音なので、「いつのまにこんなに撮ってたの」と皆様に驚かれるほど写真を撮った。
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