<35mmもキツイ、、、>

マップカメラのショーケースで、「あの白いのだと高そうに見えるから絶対に盗まれるよ。」という妻の助言にもっともらしくうなずきながら(実は従っておいたほうが穏便に高い買い物ができると考えた)、黒の0.85倍に決めた僕は店員のいるカウンターへ向かった。

「すみません、M6TTLの黒で、ファインダー0.85倍のを一つ下さい」

普通ライカを一遍にまとめて買うことなんか無いんだろうが、ちょっと緊張していた僕はつい「一つ」なんて言ってフツーの買い物を装う。これがかえってフツーでない感じに聞こえていることは直ぐに分かり、余計に緊張する。

そんな緊張する僕の胸のうちを見透かしたように、店員が言った。
「0.85でいいんですか?見せてあげますから確認したほうがいいですよ。」

確かに実物を触ったことも無いぼくが、0.85倍に決めた理由などいい加減なものである。「評判のいいM3に一番近い数字だったから」、だけだ。急に不安になってきた。

「あ、そうですね。それがいい。見せてください。」

緊張を隠すもなにも、素人丸出しである。

それから買うまで、一体何回2つのM6TTLを覗いただろう。

見本のM6のファインダーはどちらもクリアで素晴らしかったが、店員の助言はもっともだった。0.85倍では35mmの枠さえ見にくい。その点0.72倍の方だと、35mmがちょうどいい。28mmも無理して目をグルグル動かせば見える範囲だ。多分20回くらいは覗きなおした僕と妻は、「やっぱり0.72倍のにします。」といって見本品を不安げな店員に返した。

その日一台だけ店に残っていたM6TTL、0.72倍、黒、は僕の手に渡った。

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