<終わりに、そして始まりに>

 昔っから写真は好きだった。

 特に行ったことのない外国や、日本の古都なんかの、雰囲気が溢れるような写真を見るのが好きだった。図書館では大判の写真集を見尽くした。写真を見ながら、いつかその場所に行こうと思っていた。

 大学のとき、ヨーロッパに行こうと思った。全く違う文化が、生活が見れると思った。特にロシアのレニングラードやドイツに行きたいと思った。想像の中で、中世のような、時間も空間も違うぞ、というようなにおいが強くした。レニングラードまで中国からシベリア鉄道で行くことになったのは、旅費が安いこともあったし、夏休みをたっぷりつかってというスケジュールに合うせいでもあった。

 旅は40日続いた。ただその道中、強烈に僕の胸に、体に響いたのは、レニングラードではなかった。まるで中世の、ドイツの小都市でもなかった。

 上海の空港に降り立ったとき、

 呼び声、伸びてくる手、怒ったような顔で自分の車へとつれたてる白タクの運転手。人の声が、車の騒音が、クラクションの音が、煙が、圧力をもって自分にぶつかってきた。


   (1988年 北京天安門前 フラッシュフジカ、何mmか、Fいくつかは忘れてしまった)


 これにはやられた。

 中国に10日間いる間に、僕は怖気づいていた。もう日本に帰りたくなった。
 シベリア鉄道に乗り、ソ連も越えてヘルシンキに着いたとき、正直言ってほっとした。ここは日本と同じ文化だ、同じ価値観だとさえ思った。それだけ中国はエキゾチックだった。北欧から南欧のギリシャまでやはり鉄道で旅した僕は、待ちに待った帰国の日を迎えた。家に帰って最初にやったのは金魚の水槽の掃除だ。平和な日が戻った。

 僕はそれから、しばらく、海外旅行をしなかった。

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